1か月で9キロ減量の秘密

 

■ 1ヶ月で9キロ減量のヒミツ 2003/2/19(Wed)




手術室はひんやりとしていた。



BGMが流れている。



担当医の気分を緊張させないための曲なのか。




それとも手術を受ける患者をリラックスさせる為にかけているのだろうか。



私も好きなサリナジョーンズの曲だ。



彼女の甘い声とメロディーが殺風景で広々とした手術室に似合わない気がした。



私は手術台の上に生まれたままの姿で布を一枚かけられただけで横たわっていた。


まだ麻酔も何もされていないので意識はものすごくはっきりとしていた。



看護婦さんが数名なにやら忙しそうにしている。



看護婦さんのちょっとした動きで空気が流れ私の唯一の一枚の布がハラリと床に落ちる。



私の身体があらわになる。



  うわぁっ~・・・ぬの!ぬの!落ちた!落ちた!!




看護婦さんがさりげなく床に落ちた布を私にかぶせる。



それを2、3回も繰り返した。



テレビの手術シーンで見た布って、もっとベッドの両端にたらんとしているものだと思ってたのに。



しかも、なんて滑りやすい布なんだ!




先生はまだ来ない・・・



天井から視線を手術室の周りに移していった。





天井に近い壁の所に大きな紙が貼ってありそれには私の名前、身長と体重がデカデカと書かれていた。



○○○○○  身長170.5cm 体重 ××、×㎏





あんなに大きく書いて貼り付けなくても・・・恥ずかしい・・・



なんて健康的な体重なんだ・・




病気になる前にもっと病人らしい体重に減量しておけばよかった・・




私はそんなことを考えてていた。




担当医が入ってきた。



CTスキャンをとり終えた後におなかの状態を詳しく説明してくれた先生だ。




「こうなってしまうと手術しかないですね」



と笑顔ひとつ見せない銀縁の眼鏡をかけたクールな30歳くらいの先生だった。



婦人科の若い男の先生も私の足元の方に立っていた。




盲腸とそのそばにある右側の卵巣と卵管まで癒着してしまっているらしく



CTには塊のように映し出されていた。




異常な箇所が盲腸だけでなく卵巣と卵管まで関係してくるので婦人科の先生も立ち会うらしかった。




若い研修医らしき先生が腰椎麻酔を私にするようだ。


横向きになり少しからだをまるくして腰に打つこの麻酔注射はものすご~く痛いものだった。


腰骨に注射をしているらしい?



痛いことは痛いのだけど、たぶんこの研修医すっご~く下手だ!



「何度も刺しやがって!てめぇ!誰の腰だと思ってやがるんでぃ!覚えておきやがれ!」



心の中で江戸っ子の自分が叫んでいた。




若い研修医の不安そうな感じが注射の針の先から伝わってくるのが最高に嫌だった。



腰に注射を何回か打ったあとに仰向けになり麻酔が効いているかの確認だ。




おへそのあたりに濡れた綿をナデ~っとなでてくる研修医。


「冷たいですか?」




     冷たいじゃん・・




「はい・・・」




数秒後にまた




「今度はどうですか?冷たいですか?」




     まだ冷たいじゃん・・麻酔が効いてないってことか?




「はい」





「おかしいな・・量が足りないのかなぁ」



研修医は そうつぶやきながら壁に貼ってある紙を見た。





 っ!あれは・・・!


麻酔の分量を決めるために身長と体重が書いてあったのか・・・?



と、その時ようやく知った。




体重を聞かれた時に正直に言っておいてよかった(ほっ)・・・



麻酔の薬の量と関係があったのか・・・



「もう一回腰に打ちますので横になってください」



ええええ!まだするのかよ・・



痛さに耐え私はまた横になり注射を打たれそしてまた仰向けになった。




私の下半身が大木に変わってしまったかのように別物の感覚がしていた。



生まれて初めての不気味な感覚・・・



腰から丸太を二本つけているかのようなものすごいヘンな感じ・・




横になり仰向けになるたびに唯一自分をかくしている一枚の布切れがハラハラと床に落ちる。



足が丸太のようになってしまっていて大の字を直したくても全く動かない。



私の足は女性の足から丸太に変身してしまっているのだからどうしようもない・・




麻酔が効いてることは効いてるんだ・・・



しばらくして



「ではどうですか?感じますか?」



おへそのあたりをまたしても濡れた綿でなでているのだろうけど



今度は冷たさを感じない。




「あ、冷たくありません!」




私はほっとしていた・・だがそれもすぐに打ち消された。




「冷たくないっていうことは触ってるのは感じるんですね?」




「はい。触られてるのはわかります」




「そうですか・・・ならだめだな・・」  



と小さな声が聞こえた。



するとクールな担当医がそばにきて私に話し掛けてきた。





「部分麻酔はやめますので今、麻酔科の先生呼んできますから安心してください。


わからないうちに終わりますから」



そう言うと手術室から出て行った。




私の身体は麻酔がきかないのか?


あんなに注射してもダメなのか?


薬の量が足りないとかなのか?


デカくて身体に行き渡らないってことか?


そんなことはないよね。プロレスラーだって麻酔するよね・・・




自分を慰めたり言い聞かせたりしていた。



麻酔が効かないことが鈍感みたいでなんだか恥かしかった^^;




しばらくすると年老いた麻酔科の医師がやってきて研修医らしき若ぞうに色々と聞いている。




「これもやったか?ならこれも試してみたか?」




「この量をちゃんと打ったんですが・・」というようなことを若ぞうは言っていたようだった。




今度は、麻酔科の先生がじきじきに私の腰に注射を打った。




さっきのわかぞう研修医のド下手なやりかたと違い、あまり痛くない。




しかし仰向けになってまたしても濡れた綿をおなかにぺちゃ~って乗せた感覚を



ちゃんと感じてしまった。



(よくよく考えると敏感ってことじゃん?)





外科医のクールな医師が私の耳元で囁いた。



「部分麻酔医でなく眠ってる間に終わっちゃう方法でやりましょう。


目覚めたら終わっていますからね」




妙に優しい口調だった。



そして私の口をなにかが覆った途端(おそらく笑気麻酔だろう)深い眠りについた。




頭の中で細かい砂の絵が渦を巻いては散らばってそしてまた渦になり・・・



耳鳴りのような音が遠くでずっと聞こえていた。




「はい、終わりましたよ」



遠くの方から麻酔科の医師の声が聞こえた。




終わったんだ・・・私はゆっくりと目覚めた。




だが寒さでなのか歯はガタガタと震え、わたしの口は思うように動かなかった。




年老いた医師の声が聞こえる。




「私の右手を握ってみてください」



麻酔科の医師は私の意識が目覚めたかを確認しているようだった。




私は医師の手を握った。




「痛たたたた!そんなに強く握らなくてもいいですよ」




意識がもうろうとしていても力強い私だった。




「あの・・どこが悪かったのですか・」



私は一生懸命口を開いた。




「それは病室に戻ってからゆっくりお話しますから」



そう言われて病室へ運ばれた。




手術はおよそ3時間ほどかかった。





盲腸と右側の卵管と卵巣が癒着してしまい



腹腔内膿瘍という病名がついた。



原因は、盲腸になったのに町医者からもらった薬だけで一週間過ごしていたせいで



悪化し、おそらくその周りのものまで全て膿んでしまったのかもしれない。ということだった。



手術後2日間は水も飲ませてもらえず



一日に口に入れられるものは氷一個だけ。




そして殆ど点滴だけで過ごし3週間後の退院の時の私はふた周りくらいスリムになり、



それはそれは理想的なモデル体型となっていてウキウキして帰宅した。




町医者にかかっていた一週間で2・5キロ減り(何も食べるな飲み物だけ可の指示を守って過ごし



(今考えると無茶だよね)



そして入院の3週間で6,5キロ減り、




およそ一ヵ月で9キロの減量に成功?したのだった。






その後時は流れいつのまにかほぼ入院前の私に戻っていた。




また痩せたい・・




けどおなかはもう二度と切りたくない。。